第88回 イヌの隅角発生不全関連緑内障(Goniodysgenesis associated glaucoma)について
イヌの隅角発生不全関連緑内障(Goniodysgenesis associated glaucoma)について
?@概要
隅角発生不全関連緑内障とは、隅角の発生異常により眼房水の流出が妨げられて引き起こされる緑内障です。
これには原発性緑内障(primary glaucoma)、急性原発性閉塞隅角緑内障(acute primary angle-closure glaucoma)、原発性開放隅角閉塞cleft緑内障【※1】(primary open-angle closed-cleft glaucoma)が含まれます。
※1:この場合、cleftとは前眼房の房水が流出する裂隙のことを指していますが、同部位の適当な邦訳名が無いためこのように表記します。
?A好発犬種
この疾患は遺伝性疾患であり、現在のところ好発犬種としてバセットハウンド、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、ウェルシュ・スプリンガー・スパニエル、フラットコーテッド・レトリバー、グレート・デン、サモエド、柴犬、シベリアンハスキーが知られています。
?B好発年齢
この疾患は先天的な隅角の発生異常が原因となっていますが、眼圧は加齢と伴に上昇していくことが分かっています【※2】。緑内障として発症するのはほとんどは中年〜老年になってから急性に起こるとされています。開放隅角の場合はゆっくりと進行するとされています。また、隅角発生不全が緑内障を引き起こす危険因子となっていることは明らかですが、隅角発生不全の全てのイヌが緑内障を引き起こすわけではありません。
※2;Functional and Structural Changes in a Canine Model of Hereditary Primary Angle-Closure Glaucoma
Sinisa D. Grozdanic et al. 2010
?C検査方法
閉塞隅角の場合、隅角鏡検査で狭窄した隅角を確認することができます。多くの場合、隅角の狭窄は眼球の全周に見られるわけではなく部分的です。
?D病理機序
閉塞隅角の発生異常では、虹彩が前方へ偏位しています。瞳孔が収縮している状態(縮瞳)では虹彩が伸長している状態のため隅角の閉塞は起こりませんが、瞳孔が開いた場合(散瞳)に虹彩が前房隅角を閉塞することになり、眼房水の流出障害を引き起こします。開放隅角の場合は隅角の閉塞は見られず、より遠位の線維柱網の付近で眼房水の流出抵抗が増大しており、これは線維柱網の異形成(pectinate ligament dysplasia)によるものとされています。
?E組織学的所見
閉塞隅角緑内障の眼球を顕微鏡で観察しますと、虹彩周辺のブドウ膜間質が線維柱網より前方に張り出しています。ブドウ膜間質、線維柱網、角膜後縁の癒着(周辺前癒着)が生じており、線維柱網が本来形成すべき裂隙は間質に覆われ塞がれています。また角膜のデスメ膜は肥厚し、分岐状に変化しています。
?F病変の進行
この緑内障の多くは、片方の眼球が発症してからしばらくして対側の眼球も発症するとされています。
パソラボ
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