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第87回 犬のブルセラ症について



犬のブルセラ症について

雄性生殖器系に感染因子あるいは有害物質が侵入し、炎症を生じる主要な門戸として以下の4つがある。

?@;上行感染・・・包皮内常在菌等による尿道からの上行性感染(とくにActinobacillus seminis, Histophilus somni, Escherichial coli など)
?A;血行感染・・・Brucella sp. (B. canis )等により特に精巣上体と副生殖腺が標的となる
?B;腹膜伝播・・・鞘膜腔は腹腔と連続しているので、腹膜炎は鞘膜にも及ぶ(初期には鞘膜腔内に線維素が析出し、のちに線維化が起こり陰嚢と精巣の癒着が生じる)
?C;直接貫通・・・外傷等により陰茎、包皮、陰嚢に起こる(特に陰嚢は外傷、凍傷、セメント埃などの環境内の刺激因子によって非特異的に炎症が起こる)

この中で?Aの血行感染の主な原因となる特にB. canis について、

ブルセラ属菌;グラム陰性短桿菌で人獣共通感染症である。人ではマルタ熱、波状熱を引き起こし、約5%の患者が中枢神経症状を伴う神経ブルセラ症を発生する。
動物では主に流産を引き起こすが、人に見られるような発熱等の症状に乏しく、症状のみによる診断はほぼ不可能と言われている(ある報告では発熱や毛づやの消失、運動不耐性が出現することもあり)。

菌の最大の特徴はマクロファージ内で菌が増殖する細胞内寄生菌である。感染初期には菌は広く全身に分布するが、後期では乳房およびその周囲のリンパ節に限局する傾向がある。
妊娠動物が感染した場合には他の臓器に比較して胎盤および胎子において菌の増殖が認められる。胎盤中の栄養膜細胞において多数の菌の増殖が観察され、栄養膜細胞の機能が菌の感染によって阻害されることが流産の一誘因の一つと考えられている(とくに妊娠後期44−55日の流産が特徴)。

犬に感染するブルセラ菌にはB. canis, B. abortus, B. melitensis, B. suis が知られており、おもにB. canis 感染によってブルセラ症が引き起こされる。
犬のブルセラ症では血中の抗ブルセラ抗体の存在がブルセラ菌属の持続感染を意味する。従ってブルセラ症の診断には血清学的検査法が一般的である。
(犬のブルセラ症は法的に規制はなく、我が国の相当数の犬がB. canis に感染歴があるものと考えられている)
B. canis の主要な感染経路は交尾感染であると考えられが、経口および経皮感染などの全ての経路で感染が成立し、動物間だけでなく感染動物から人への感染もほぼ同様な経過による。
また感染犬の尿にもB. canis が混入していることが報告されており、犬のブルセラ症の自然感染において“尿”も注意が必要である。
感染犬の多くは無症状のまま長期間菌を保有し続ける。最初に菌に暴露されてから約三週間で菌血症になり(約二年間に亘り菌血症持続)、その後菌は標的臓器である生殖器へ移行し、数か月から数年間は菌を排出し続ける。
雄の場合、前立腺、精巣上体等で菌は増殖し、精液中に菌が含まれるため、感染拡大の原因となる。雄の臨床症状として精巣炎と前立腺炎があり、急性の場合には疼痛を伴う精巣の腫大、慢性の場合には小さく硬結し、融解する。潰瘍性陰嚢皮膚炎を伴う精巣の壊死も報告されている。菌による精巣の傷害は自己免疫反応を誘発し感染後11−14週後に血清中に抗精子抗体(精子凝集抗体)が出現する。(持続感染の場合にはブドウ膜炎や髄膜炎が観察されることもある)

弊社でも化膿性精巣上体炎、精巣炎がこれまでに 126 例診断されています。大抵は精巣の左右の大きさやしばしば伴う疼痛のために、切除・検査される場合がほとんどです。
摘出時には慢性化しており原因の特定に至ることが困難な場合がほとんどです。Actinobacillus seminis, Histophilus somni, Escherichial coli などの上向感染による細菌とは異なり、ブルセラは精巣摘出後も他臓器に潜伏していますので、引き続き感染源となりうる可能性は十分考えられます。組織学的に精巣上体炎と診断された個体や流産、子宮内膜炎に罹患した個体ではブルセラ抗体等の検査をしておくことも必要かもしれません。

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