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第83回 イヌの皮膚に発生した、複数の皮膚付属器に分化を示す腫



今回はイヌの皮膚に発生した、複数の皮膚付属器に分化を示す腫瘍の症例報告論文です。
J Vet Med Sci. 2009 Nov;71(11):1513-7.
Cutaneous clear cell adnexal carcinoma in a dog: special reference to cytokeratin expression.
YASUNO K, NISHIYAMA S, SUETSUGU F, OGIHARA K, MADARAME H, SHIROTA K.

症例;イヌ、ビション・フリッセ、5歳齢、♂

臨床症状;左耳介基部における直径約8 mm の赤い丘疹状皮膚腫瘤。組織学的スクリーニングでは扁平上皮癌や悪性毛包上皮腫を疑うとの結果。

肉眼所見;割面は灰白色境界明瞭、部分的に出血巣。切除後11か月間、再発や転移を認めず。

特殊染色;フォンタナ・マッソン染色(メラニン顆粒を染める)、ズダンIII 染色(脂肪を染める染色)、PAS 染色(糖などを染める染色)

免疫染色;上皮系細胞マーカーのCytokeratin (以下CK)AE1/AE, CAM 5.2, CK7(汗腺), CK8(毛包外根鞘細胞), CK14(基底細胞), CK16(毛包内根鞘細胞), CK18(汗腺), CK19(正常なイヌの皮膚には認められない), CK20(メルケル細胞), Vimentin(間葉系細胞マーカー), α SMA(平滑筋等のマーカー), S100aとNSE(末梢神経等のマーカー), Melan A(メラノサイトのマーカー), MHC-II(マクロファージや組織球マーカー)

電顕;TEM

組織所見;腫瘍細胞は境界明瞭で細胞密度は高く、薄い線維性中隔で境された小葉構造から形成されていた。腫瘍組織中には数層の腫瘍細胞に内張りされる巨大な嚢胞構造も認められ内部には血液等が充満。腫瘍細胞の大きさや形態は様々であり、円形、多角形、紡錘形等を呈していた。腫瘍細胞は中等度から豊富な薄い好酸性細胞質と大きな核、明瞭な核小体を有していた。10個以上の核を有する腫瘍細胞も存在した。ほとんどの腫瘍細胞は空胞状または明るい細胞質を有しており、その空胞はズダン染色陰性、ジアスターゼ処理後のPAS 染色陽性でありグリコーゲンであった。フォンタナ・マッソン染色は陰性、電顕で細胞質に神経内分泌顆粒は認めず。腫瘍組織内の小葉辺縁付近には時折、毛乳頭と考えられる房状の紡錘形細胞群が認められた。核分裂指数(10視野合計)は約4であった。

免疫染色結果;ほぼ全てのサイトケラチンを認識するpan CK (AE1/AE3, CAM5.2),と CK8, CK18 抗体は陽性。その他のCK には陰性であった。CAM 5.2 は紡錘形細胞に陽性であり、円形や多角形の細胞に陰性であった。CK 19 は正常なイヌの皮膚のいずれの領域、本例の腫瘍細胞ともに陰性。FITC 標識による二重免疫染色ではCK とVimentin 抗体の両方に陽性の細胞が認められ、特に紡錘形細胞に多かった。S100a 抗体陽性の腫瘍細胞は小葉辺縁部に認められ、これらの腫瘍細胞はNSE 抗体に陰性であった。MHC-II 抗体に陽性を示す腫瘍細胞が認められたが、その細胞形態から樹状細胞と考えられた。
この腫瘍の類症鑑別には風船細胞様メラノーマ、明細胞基底細胞癌、皮脂腺癌が含まれるが、本例はCK 陽性からメラノーマは除外され、CK 14 陰性から基底細胞癌が除外、組織学的にも免疫染色的にも皮脂腺癌は除外された。また腫瘍組織中の毛乳頭の出現、CK 8 陽性所見から毛包への細胞分化が示唆された(CK8は外根鞘細胞には陽性だが皮脂腺には陰性) 。また外根鞘細胞は細胞質にPAS 陽性顆粒を有し、本腫瘍も陽性所見が認められた。しかしながら内根鞘細胞への分化は検出することができなかった(内根鞘細胞はCK16 陽性だが、本例は陰性)。またCK18 陽性所見は汗腺組織への分化を示しているが、CK7 が陰性であることから、本症例が汗腺に分化しているという結論には達しなかった。
複数のマーカーを用いた免疫染色や特殊染色、電顕等により、本腫瘍が毛包や汗腺等の性格を有する細胞に分化を示すことが示唆されました。ヒトのこの腫瘍は小胞幹細胞(follicular stem cell)に由来するといわれており、様々な付属器への分化を示すことが報告されています。またCK とVimentin 抗体の両方に陽性を示すことも知られています。メラノサイトやメルケル細胞への分化を示す報告もあり、ヒトではこの幹細胞のマーカーとしてCK15, CK19, CD34, CD200 抗体等が使用されていますが、イヌでは正確なマーカーは今のところなく由来の確定には至ってないようです。
これまでに報告されている論文では、イヌでの発生の平均年齢は6.9歳、品種や性別、好発部位などは明白にされていません。
弊社ではこれまでに23例診断されており、1例は局所リンパ節転移病巣が認められました。

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