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第79回 イヌの舌に発生した多発性黄色腫



今回はイヌの舌に発生した多発性黄色腫に関する症例報告論文です。

J Vet Diagn Invest. 2009 Jan;21(1):124-8.
Multiple atypical mucosal xanthomas in a dog similar to human verruciform xanthoma.
Balme E, Thuilliez C, Lejeune T, Chateau-Escoffier L, Bernex F.


症例;イヌ、シーズー、14歳齢、去勢オス

臨床症状;咳、食欲不振、不整脈、心雑音、僧房弁弁膜症、舌の腹側・背側における直径1−8mm大の黄色乳頭状〜わずかに膨隆する結節状構造物。同様な腫瘤が上唇内側粘膜にも認められた。

二か月後、肝酵素値上昇、体重減少により再び受診。尿検査では糖尿もビリルビン尿症も検出されず。その一週間後に虚脱、食欲不振、急性の腹痛を訴えた。開腹術では腹血を伴う左副腎の腫瘤が認められた。腫瘤は外科的に切除されたが、数時間後に患畜死亡、剖検実施。

剖検所見;胸腹部皮下に重度の水腫、心では僧房弁と三尖弁の結節状の弁膜炎。肝臓の腫大、結節性過形成。舌と類似の病変は食道と胃にも認められた。

免疫染色;ライソザイム抗体、MAC387抗体、ACM1抗体、CD68抗体

特殊染色;凍結切片を用いたオイルレッドO染色(脂質を検出する染色であり、パラフィン切片では無理)

組織所見;左副腎の腫瘍は悪性褐色細胞腫であった。舌、食道、胃の多発性腫瘤の内部は直径20−25μmの泡沫状細胞で満たされていた。これらの細胞周囲の結合組織には針状のコレステリン結晶などが認められた。

免疫染色で上記の泡沫状細胞はCD68とMAC387に陰性。ライソゾームとACM1抗体に陽性であった。
CD68は細胞質内顆粒に関連した糖蛋白であり、細胞膜には少ないとされている。またMAC387は骨髄球/組織球系細胞の抗原で、稀にマクロファージに陽性を示す。泡沫状の細胞質ではCD68抗体が検出しにくく、MAC387はどちらかというと循環中の単球のマーカーであり、マクロファージは染まりにくいかもしれない。しかしながらライソザイム抗体とACM1抗体陽性所見、細胞質内にオイルレッドO陽性物質が存在することから増殖する細胞は脂質を貪食したマクロファージと判断され黄色腫と診断された。

イヌの黄色腫は通常、高脂血症や糖尿病、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症などの脂質代謝障害に関連して生じ、顔面や耳介、腹部や内臓(脾臓、肝臓、副腎、胃、十二指腸、膵臓)に発生する。

本例では血液検査、尿検査でこれらの脂質代謝障害を示唆する所見は見いだされず。脂質代謝障害に関連性のない病変と考えられた。

このような舌に好発する黄色腫はヒトのイボ状黄色に類似したものである。ヒトのこの疾患も病因は明らかになっておらず、ウィルスなども検出されていない。

イヌのこの部位における類似の組織像を呈する疾患としてバルーンセルタイプのメラノーマがあるが免疫染色では否定できる。

黄色腫はリポタンパクを貪食したマクロファージが集合して腫瘤を形成するものであり、腫瘍ではありません。ただし、単一細胞群であるため、組織学的には腫瘍性疾患が鑑別に挙げられる点で問題になります。
弊社では各種染色で由来の特定を試みましたが特定はできていませんでした。これは一般的なマクロファージ抗体に陽性所見を示さない事などによります。凍結材料等を用いた染色が可能であれば脂質の証明につながり、この疾患であることを確定できるかもしれません。この論文に載っていた組織写真ならびに肉眼像は弊社でいくつも経験している舌腫瘤に酷似しており、同一疾患である可能性が高いものと考えられます。弊社における経験では、多くの症例はミニチュアダックスでした。今後、臨床的に高脂血症等の代謝性疾患の有無を確認できたらと思います。

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