第77回 ネコの小腸腺癌
この報告はネコの小腸腺癌について、外科手術を実施した場合と、手術しなかった場合、および転移が見られた場合の生存期間を比較したものです。
Surgical versus non-surgical treatment of feline small intestinal adenocarcinoma and the influence of metastasis on long-term survival in 18 cats (2000-2007).
Can Vet J. 2011
ネコの腸管に発生する腫瘍として、悪性リンパ腫に次いで発生が多いものが腺癌であり、外科的切除が選択される。
この研究の目的は、小腸腺癌と診断されたネコで、腫瘍を外科的に切除したグループと外科手術をしなかったグループ、また手術時に転移が見られたグループと転移の見られなかったグループとで生存期間を評価することである。
症例;
腸管腫瘤をもつネコ18例、平均年齢 14歳(10-17歳)
10例は外科的に切除され、小腸腺癌と診断された。
8例は超音波ガイド下FNAにより小腸腺癌と診断され、外科手術を実施しなかった。
(この8例はいずれも転移の兆候が見られた)
いずれの症例も化学療法は実施されていない。
結果;
外科切除された10例の中央生存期間は365日(90-1320日)であった。10例中7例に病理検査が実施され、5例は組織学的に転移が認められた(腸間膜リンパ節、大網、肝臓、腹壁、腸間膜、肺)。1例は胸部レントゲン検査で肺転移が疑われた。
手術時に転移の兆候が見られなかった4例の中央生存期間は843日(180-1320日)
転移の兆候の見られた6例の中央生存期間は358日(60-540日)
死因は小腸腺癌の進行による臨床兆候のため安楽死(6例)、原因不明で自宅で死亡(1例)。1例は調査時点で無症状で生存中、2例は追跡不可であった。
外科手術を実施しなかった8例の中央生存期間22日(1-1260日)
8例のうち5例は小腸腺癌の直接的な原因により安楽死されており、3例は自宅で原因不明で死亡している。
考察;
外科手術を実施したグループ10例の中央生存期間は365日であり、外科手術を実施しなかったグループの中央生存期間22日と比較すると有意な延長が見られた。
外科手術を実施したグループのうち、転移の兆候が見られた6例(レントゲンでの肺転移を疑う症例を含む)が358日、転移の兆候が見られなかった4例は843日であった。この結果から、ネコの小腸腺癌は転移の徴候が見られる前に切除されれば、長期の無病期間が得られることが考えられる。しかし、この研究では症例数が少ないことから、統計上の有意差は得られなかった。
外科手術を実施しなかったグループ8例の中央生存期間は22日であり、これらはいずれも転移の兆候が確認されていた。外科手術を実施したグループのうち、転移の兆候が見られた6例の中央生存期間が358日であったことと比較すると、転移が疑われた場合であっても外科的に切除した方が生存期間が延長することが考えられる。
パソラボ
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