第214回 軟部組織肉腫の細分類について その2
ヒトにおいては今や遺伝子レベルで診断が行われていますが、診断手法や分類が成熟していなかった頃の病理診断を再検討したところ、70%もの症例に分類の誤りがあったという報告があります。動物ではヒトにおけるほど診断は進化しておらず、未だ細分類できない軟部組織肉腫を多く経験します。近年では他社におかれましてもSarcoma NOS (分類できない肉腫の意)などの診断名が使用されており、無理に細分類しない事が一般的になってきましたが、まだそれを多くの先生が理解しているとは言えません。
第214回 軟部組織肉腫の細分類について その2
【きちんと分類できないことを納得せざるを得ない証拠2】
では次に滑膜肉腫を考えてみましょう。以前は滑膜肉腫は外科的対処により比較的良好な予後を辿る症例群と、その逆に転移を起こし速やかに進行する症例群といったように、予後が両極端に分かれる傾向があるとされていました。しかしその後に滑膜の組織球肉腫という疾患が知られるようになり、予後の悪かった症例群は実は組織球肉腫であった可能性が高いと考えます。それまで全てを確定診断していた先生は、かなり誤診していたという事になります。
このように予後が大きく異なる疾患であれば、時代が進み診断が可能になるにつれて過去の誤りが判明しやすいのですが、予後が似たような疾患同士であれば、分類を誤っても臨床的には問題にもならず、気付かれることもなく、病理医の言ったもの勝ちとなる訳です。
【細分類しないと治療ができないという誤解】
肢に出来た腫瘍に関してコア生検が実施され、軟部組織肉腫の診断が下さいました。これに対し、線維肉腫であるのか血管周皮腫であるのか判らなければ、治療ができないとクレームが入ります。ここで線維肉腫であればどのように治療しますか?血管周皮腫であればどのように治療しますか?と質問しても明確な返答はありません。それもそのはず、「細分類されない=治療できない」 というのは信じ込ままされてきただけだからです。これを聞いて「なるほど!」 という柔軟性のある先生であればとても有難く思います。
【大事なのは疾患名の細分類ではなくその他の情報である事が多い】
以下に示すような予後の異なる腫瘍であれば、事前に知っておきたいところですが、それ以外の軟部組織肉腫であれば、基本的には治療法は細分類名に左右されることはほとんどなく、外科的な見積もりや、進行度の把握などが重要になるかと思います。組織学的には軟部組織肉腫の範疇の腫瘍であること、悪性度などが判る程度で充分です。もちろん完全切除後は、最終的な悪性度やマージン評価が求められます。いずれにしましても、細分類は治療法決定の重要な要素にはなりません。
「予後の異なる疾患が想定されるのであれば可能な限り分類すべき」
軟部組織肉腫に限りませんが、挙動の違う腫瘍であれば出来る限り具体的な診断が望まれます。例えば、血管肉腫、悪性メラノーマなどの転移性が高くなる可能性のある腫瘍、ネコの口腔などに発生する末梢神経腫瘍(浸潤性の性質)、注射部位肉腫、ゴールデンの高分化型線維肉腫などが挙げられます。弊社ではこれら「転移性が高い腫瘍、再発の可能性が高い腫瘍、肉眼で想定されるよりも広く波及する腫瘍」 などの可能性がある場合には免疫染色も行い追求します。
弊社では軟部組織肉腫と診断する以上の細分類が必要であるのか否か、これを常に考え診断しております。
パソラボ
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