第213回 軟部組織肉腫の細分類について その1
第213回 軟部組織肉腫の細分類について その1
昔から「細分類できないのはおかしい、そんなのは診断ではない、細分類してもらわなければ治療ができない」 等といったクレームを頂くことがあります。弊社と動物病院様の間で生じたトラブルのうちのかなりの割合を占めるとても大きな問題です。これにより弊社との関わりを断った病院様は相当数に上ると考えられ、また攻撃的な言動をされたため残念ながらも強制的に登録解除をせざるを得なかった病院数もおそらくこの30年弱で20件前後はあるかと思います。地域の勉強会や学会で名のある先生が誤った情報を皆様に教えていることに起因する問題であり、それに参加されている先生方もそれを信じてしまう事は理解はできます。ある程度病理にかかわってきた方であれば、分類できない腫瘍など日常茶飯事であることは誰でも知っている事であるにもかかわらず、何故そのような主張になるのか理解に苦しむところです。いずれにしましてもこの問題は正さなければならない事であると認識しています。
近年では動物病院様の理解も進み、そういった誤ったクレームは激減していたものの、細分類が必要ないと主張する先生の引退に伴い、再び細分類必要派が芽吹きつつある印象を受けますので、ここで改めてご理解いただけるようにご説明いたします。2,3回に分けて記載しようと思いますが、全てお読みいただければ、腑に落ちるようにご納得いただくことが出来るかと思います。
【先ずは軟部組織肉腫の範囲】
広い意味、狭い意味という事がありますが、弊社では、血液系腫瘍、骨腫瘍、脳腫瘍などを除いた非上皮性悪性腫腫瘍の多くを軟部組織肉腫として扱っています。発生部位も特に限定はしておりません。具体的には線維組織、末梢神経、脂肪組織、筋組織などに由来する悪性腫瘍です。
【動物で細分類できない理由】
日頃の病理診断の中で特徴に乏しい悪性間葉系腫瘍といったものは多く経験します。そのようなものをまとめて軟部組織肉腫(の範疇の腫瘍)と診断することになります。ヒトでは軟部組織肉腫は多く分類されており、また各腫瘍における組織パターンも細分類されています。これはヒトの分野では世界中に多くの病理医が存在し、また分類するための多くの種類の抗体を用いた免疫染色なども仕様可能で、医学の発展に多くの資金をつぎ込めることができるからこそなしえたものです。
一方で動物の場合はどうでしょうか?最近は分類が少し進んだものの、以前のWHO分類では線維肉腫、脂肪肉腫、平滑筋肉腫などが分類されていますが、ヒトの分類と比べるとあまりに貧弱です。動物では本当にこれしか疾患が存在しないというわけではなく、分類が進んでいないということに他なりません。
【きちんと分類できていないことを納得せざるを得ない証拠1】
ではGISTを考えてみます。長く獣医師をしておられる先生方は以前はGISTをご存じなかったはずです。以前は報告されておらず分類がなかった疾患ですので、当たり前ですね。しかし、今となっては腸管に発生する多くの非上皮性腫瘍がGISTであることが判っています。
ここで 「細分類できる」 と主張する先生は、GISTが存在していなかった時代もそれに対し何からの具体的な診断名を下しており、そのすべては誤診であったという事になります。
次回に続く
パソラボ
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