第210回 胃癌 その2
第210回 胃癌 その2
【胃癌の細胞診】
胃癌であれば、上皮性の腫瘍細胞が採取される可能性がありますが、その数はそれほど多くはなく、また場合によっては採取されないといった可能性もあります。
病変が硬くしっかりとしたもの(脆弱なものではなく)で、腫瘍細胞の播種や大量出血などの危険性などがなければなければ、シリンジを使用しないneedle off で腫瘍細胞を採取することは有効です。SB 針を用いてneedle offで採取した方が、目的とする腫瘍細胞が採取される確率は上がります(ただし細胞診を行う前に病変を裂けたり破裂させたりする等の可能性が考えられる場合には、needle on にしたり、針を細くしたり、細胞診の実施自体を見送ったりという事も考慮されます)。本来、上皮性細胞は粘膜に存在するものですので、異型性が軽度な細胞であっても、筋層と考えられる部位から上皮細胞が採取されれば、臨床状況を併せてある程度胃癌と判断可能です。
【明瞭な胃炎を伴う事が一般的】
胃癌の症例では比較的明瞭な胃炎を伴う事が一般的です。そのため胃癌の症例であったとしても、内視鏡で癌細胞が存在する部位が「採取されていなければ「胃炎」 という診断になってしまいます。特に幽門部などでは肥厚性胃炎に類似する所見が観られることもありますので、胃壁の肥厚といった臨床状況も説明がついてしまったりする訳です。そのため臨床経過の進行具合、胃壁の5層構造の消失、触診所見なども併せて判断し、病理診断と矛盾が生じないか否かを評価する必要があります。もちろん病理医の立場としましても、組織標本から得れる胃炎の程度と臨床状況に矛盾があれば、ご報告書にその旨コメントを記載します。
【問題は初期の胃癌の鑑別】
典型的な胃癌の症例について述べてきましたが、もちろん初期病変の症例も存在します。つまり触診のみならず、CTや超音波などの画像上の明らかな異常所見も存在せず胃腸炎の可能性も充分に考慮されている段階です。その場合であっても進行性の嘔吐や体重減少など違和感がある場合には、内視鏡での充分数の採材を行えば診断はある程度可能です。
【内視鏡検査】
20−30年ほど前は「胃癌は内視鏡では診断できない」 といったような話が腫瘍の専門家の間でも一般的な見解でした。それは腫瘍細胞が粘膜内病変を広く形成するよりも、胃壁に浸潤してしまって粘膜に腫瘍細胞が存在する部位が少ないということがその根拠だったのだと思います。ただし私の経験からはある程度の数の採材数があれば、胃癌の診断は大体できているといった感覚があります。少なくとも内視鏡では多くの場合は診断困難といったことはないと思います。
【胃炎と診断する際の病理的違和感】
内視鏡で癌病変が採取されていなくても胃癌が隠れている可能性を推測できる要素があります。検査依頼書にどの程度臨床状況を記載して頂いているかにもよりますが、まずは臨床状況が充分に説明できない組織所見であること、そして組織学的には「胃炎の場合とは異なる胃腺の乱れや分岐」 になります。胃炎の際にも胃粘膜が傷害を受けるため胃腺の再生性の配列の乱れなどが生じるのです。しかしながら言葉では説明し難いのですが、周囲に胃癌が存在する場合には胃炎の際とは異なる胃腺の異常が生じる事が少なくありません。
パソラボ
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