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第208回 乳腺組織のマージン評価に関しまして



第208回 乳腺組織のマージン評価に関しまして

今回は乳腺腫瘍のマージン検査についてではなく、乳腺組織そのもののマージン評価(乳腺組織の取り残しの有無)が可能であるのか否かに関して記載しようと思います。乳腺片側切除、もしくは最近は見かけませんが左右の乳腺一括全切除を行った際に、乳腺組織の取り残しがあるのか否かは臨床の先生方には気になることろだと思います。全ての乳腺組織を切除したにもかかわらず、新たに乳腺腫瘍が発生した場合、気まずい思いをするとお考えなのだと思います。実際にそのようなことは起こります。個人的にはそこは最初から限界を飼い主様に素直にお伝えすればよいようにも思いますが、病理の観点からの見方が参考になりましたら幸いです。

【取り残しはどこに起こりやすいか】
先生方の経験的にご存じかもしれませんが、前方の乳腺と、特に陰部に乳腺が潜り込んでいる場合には乳腺最後部の後端が特に分かり難いと思います。前方の乳腺は筋組織と一体化しており判り難くなります。特に避妊済みなどの委縮した乳腺では乳腺が蝕知困難な状況の中での切除になります。また乳腺後端では乳腺周囲の組織を含めて切除する余裕はありません。

【乳腺組織の組織構造】
乳腺組織を顕微鏡で観察しますと、いくつもの乳腺小葉から構成されています。各小葉は多数の腺房から構成されており、乳腺小葉から導管を介して乳汁が排出されます。さらに導管が集合してより大きな導管を形成します。通常の萎縮していない乳腺組織においては、上記の乳腺小葉が密に集合し、特に後位乳腺では境界明瞭な乳腺組織を形成しています。

【乳腺の塊から離れて存在する腺房も】
通常の萎縮していない乳腺であれば特に後位乳腺の左右方向では乳腺の境界がはっきりと確認でき、乳腺の位置をはっきりと確認しながら切除できると思います。そのような乳腺は組織学的に観ても境界が明瞭で乳腺の辺縁が判りやすいものです。
しかしながら前位の乳腺でありがちですが、臨床的には底部方向のみならず乳腺の横方向の辺縁も見極めにくいと思います。このような部分を組織学的に観察するとどうなっているでしょうか?組織学的にも乳腺辺縁が見出し難く、一見するとこれが最も辺縁部の乳腺小葉だろうと思っていても、さらに外側の離れた部位に乳腺小葉や腺房が見つかるといったことがよくあります。特に避妊済みなどの萎縮した乳腺においては、塊としての乳腺組織自体も確認し難くなっている上に離れた部位に萎縮した乳腺が隠れているため、さらに見つけ出すことが難しくなります。

【高度に委縮した乳腺】
乳腺が委縮する際には腺房から萎縮していき、次いで導管の委縮が起こります。従いまして乳腺の委縮が重度になった際には乳腺小葉は消失し、導管が残ります。さらにはの導管も細くなり、内腔も消失し、数も減少していきます。導管すらも見つかり難い状況下で乳腺が完全に切除できているか否かを判断することは不可能と言っても言い過ぎではないと思います。

【マージン評価は二次元】
仮にマージン評価をしようとして組織を作製した場合でも、前位乳腺など観察し難い部位である場合、切り出し部位をなかなかピンポイントに選べるものではありません。さらに組織標本はその厚さが4/1000mmであるため、仮にマージンが不安なわずか1?pの範囲であっても2500枚の組織標本が作製可能になります。明らかにマージン(+)であればわかりますが、(-)と評価することはなかなか難しいものです。肉眼的なマージン評価が困難な部位を組織学的にマージン評価をする場合にはリスクが大きいことがおわかりいただけるかと思います。

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