第202回 ネコの大腸線癌
第202回 ネコの大腸線癌
前回、前々回とイヌの大腸腺癌について記載しました。大腸腺癌という診断名から受ける印象と現実にはかなりの違いがあり、問題点を理解して頂けたのではないでしょうか。実際、他社で大腸腺癌と診断されていながらも治癒する症例が続いているのだがどういう事か?というご質問をいただいたこともあります。バイオプシーの意義や診断精度の限界、触診所見の重要性など色々と考慮することがあり、それは臨床の場の先生にゆだねられ、また診断上の問題点の知識の有無に大きく左右されます。診断精度の低い方法で治療方針を決定しようとしていたりといったことが、日常的に起こっているのが現状です。これらは獣医学書を読むだけでは、現実との隔たりがとても大きなものになりますので、これからも現実的な視点からお伝えできることがあればと思います。それでは今回はネコの大腸腫瘍の場合はどうなのかをお話ししたいと思います。
【ネコの大腸粘膜の発生頻度】
ここでは大腸粘膜上皮に由来する腺腫と腺癌に限定します。粘膜上皮の腫瘍はイヌの疾患という印象がありますが、ネコでもそれほど珍しいものではありません。イヌ3例を経験すればネコで2例を経験するくらいのイメージです。ただしこれはパソコン上の診断データによるものであり、イヌでは多発しやすかったり(同じ症例が繰り返し検査されていたり)、またミニチュアダックスに生じる炎症性ポリープの中に腺腫が併発したりするという事もありますので、症例数といった意味とは異なります。
【最も重要なのは浸潤性増殖の有無】
臨床挙動に相関する良悪の評価において、最も重要な指標は浸潤性増殖であると考えます。ただし、腫瘤の一部のバイオプシーにおいては、この浸潤性増殖を示している部位が採材されない可能性は考えられます。そういった点で良悪の評価にリスクがあり、その点はイヌの場合と同様です。
【浸潤性以外の異型性などの悪性所見】
腫瘤の一部が採取されるバイオプシーでは、浸潤性が評価できない場合、異型性や核分裂像、配列の乱れ等といった所見から良悪を評価されることになります。ネコでは異型性がイヌのものよりも強い傾向があり、イヌよりも悪性(腺癌)で診断される確率が高くなるかもしれません。
【ほとんどは本格的な腺癌である】
ただし、仮に異型性が軽度であり、核分裂像や配列の乱れなど形態学的悪性所見が確認されない症例であったとしても、ネコの場合は腫瘍全体を評価すれば、ほとんどの症例が浸潤性を示す本格的な腺癌です。従いまして、バイオプシーでは粘膜上皮の腫瘍である事さえ判れば、形態学的な良悪は気にせずに、悪性度の高い腺癌であることを前提とすべきかもしれません。ごく一部に例外的な症例もあるかもしれませんが、いずれにしても例外を見抜くだけの診断精度を得る方法はおそらくありません。
【触診所見や二重造影は役に立つ】
イヌの大腸腺癌の時と同様に、粘膜内に発生した腫瘍と筋層の可動性の有無を調べることは浸潤性悪性腫瘍か否かの判断において重要です。その手段が触診やレントゲンの二重造影という事になります。
【報告書の記載】
似たような組織所見であったとしても、動物種が異なればこれだけ解釈も異なります。弊社では純粋に形態のみで判断するにとどまらず、臨床状況を加味して総合的にに判断したり、組織所見から得られること以外にも、上記のようなことを加味して報告書でコメントするなどしております。
パソラボ
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