第200回 イヌの大腸線癌における診断上の真実と知っておくべきこと。その1
第200回 イヌの大腸線癌における診断上の真実と知っておくべきこと。その1
イヌでは大腸粘膜に発生する腫瘍はしばしば経験します。それには腺腫と腺癌があります。これらは病理医による判断基準も曖昧ですが、バイオプシーで診断された際の解釈の仕方も知っておくべき重要な事柄です。しかしながらとても大事な事であるにもかかわらず、その問題点が知られていないのが現状ですので、ここで2回に分けてご説明しようと思います。
【先ずは大腸粘膜腫瘍の一般的な臨床挙動】
乳腺腫瘍など一般的な腫瘍においても良性や悪性という概念がありますし、弊社の診断書では悪性度といったものも評価することが多いです。そしてその良悪や悪性度といったものは、多くの場合、臨床挙動や予後のリスクと相関します。当たり前と言えば当たり前のことです。
しかしながら、イヌの大腸粘膜の腫瘍に関しては、腺腫と診断されても腺癌と診断されても予後良好の事が多いと思います(もちろん例外はあります)。ここでの予後とは再発や転移の事であり、新病変の形成に関しては除外します。本格的な大腸腺癌をイメージしていながら、その後の臨床挙動がそうならなかったという経験をお持ちの先生方は多いのではないでしょうか?
【病理学的な良悪】
大腸粘膜のバイオプシーにおいては、異型性や核分裂像、腫瘍細胞の配列の乱れなどといった所見で良悪を鑑別する事が多いかと思います。ただしこれらはあくまでも病理総論的に良悪を判断したものであって、大腸粘膜腫瘍の場合には臨床挙動と相関する因子にはあまりなりません。あくまでも病理組織学という学問的に分類されていると言っても過言ではありません。バイオプシー標本において、もしも浸潤性増殖の所見が観られた場合には悪性の判断基準として強力な所見になりますが、以下のような問題があります。
【浸潤性増殖の所見が得られにくい】
胃癌や小腸腺癌のバイオプシー標本であれば、浸潤の所見は比較的容易に観察できます。ただし、大腸粘膜の場合はそうはいきません。浸潤性を示さない症例が多い事に加えて、仮に浸潤性を示す症例であったとしても、腫瘍の一部だけに浸潤所見が認められるといったことを多く経験します。バイオプシーをした際にその浸潤部が採取される可能性はどれくらいあるでしょうか?それも浸潤性が確認される部位は通常深部領域になりますので、腫瘍表層を結紮離断したような組織ではさらに確率は下がることになります。
次回、その2に続く
パソラボ
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