第199回 ホルマリンについて
第199回 ホルマリンについて
今日は病理検査依頼の際に必須のホルマリン固定についてです。
昔はホルマリン原液を購入し、それを水道水で10倍希釈したものでよいというように学会でも述べられていました。しかしその後の免疫染色の必要性に伴い変更が求められるようになってきましたので、これを機会にホルマリン問題について簡単に記載します。
【使用期限を過ぎたホルマリン】
使用期限を過ぎて古くなったホルマリンの場合には、ホルンマリン中にギ酸が生じ、pH が下がります。そのため固定に影響を与えたり、HE 標本であっても、綺麗な染色性を得られなくなることになり、診断にとってマイナスの影響が生じます。このようなホルマリンで固定した場合、免疫染色の結果には大きな影響が生じる場合もあると考えられます。
【通常の組織検査】
免疫染色を必要とせずHE標本や特殊染色で評価可能な症例、もしくは免疫染色を用いる場合であっても、上皮性腫瘍のマーカーとなるAE1AE3や非上皮性マーカーのvimentinを染色する程度であれば、ホルマリン原液を水道水で10倍希釈した通常のホルマリン水溶液でほとんど影響は生じません。
【免疫染色の結果】
必ずしも固定の影響だけとは限らず、腫瘍細胞の分化の問題などにも影響を受けますが、免疫染色の結果が明確に出ることもあれば出ない事もあります。場合によってはHE所見からは陽性になることが強く推測される症例にもかかわらず、陰性の結果になることもあります。また陽性や陰性などきれいな結果にならず、薄く染まる場合、偽陽性、偽陰性といったことも起こります。このような染色結果に影響を与えている要因の一つがホルマリンであると考えられています。
【免疫染色の判定】
偽陽性や偽陰性、また微妙な染色結果などは、判断する時点で吟味し最終的に判定しますが、判定に迷うような染色結果はできるだけ最初から回避するのがベストです。それが可能なのが中性緩衝ホルマリンへの変更です。もちろん全例とはいきませんが、結果を出すにあたり、プラス側に働きます。免疫染色の結果判定は必ずしも容易ではなく、治療に影響を与える可能性のあるものです。
【ホルマリンの購入】
・ホルマリン原液(使用時に水で10倍希釈)
・中性ホルマリン
・中性緩衝ホルマリン
以上などの状態で販売されていますが、3つ目の中性緩衝ホルマリンをお勧めします。
【ホルマリン固定をしていない場合】
時々ホルマリン固定されておらず、水に使った状態で組織が送付されてくることがあります。また、非常に薄いホルマリン臭がある場合には、おそらく使用濃度で保管してあったホルマリンを更に10倍希釈してしまった可能性等が考えられます。このような場合であっても冬季であればあまり問題ありませんが、夏季であれば組織の変性が進み、弊社に組織が到着した時点では診断がかなり困難なほど変性しております。特に新人スタッフの方がおられる場合や、病理検体を取り扱うスタッフの方が複数おられる場合にはご注意ください。
パソラボ
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