第198回 ネコの悪性神経鞘腫の骨破壊について
第198回 ネコの悪性神経鞘腫の骨破壊について
様々な腫瘍が、隣接する骨を破壊することがあります。しかしながら軟部組織肉腫が骨破壊をすることはそれほど多くは経験しません。また軟部組織肉腫が仮に骨破壊を起こした場合であっても、腫瘍が外部から骨を破壊しているという判りやすい状況であると思われます。しかしながら悪性神経鞘腫の骨破壊はそれとは性質がやや異なります。そのため腫瘍症例の経験が豊富な獣医師ほど、診断とレントゲン所見に違和感を感じるかもしれません。
【ネコの悪性神経鞘腫は浸潤性増殖をすることが多い】
ネコの悪性神経鞘腫は浸潤性に増殖することが割と多い腫瘍です。通常の腫瘍の浸潤所見と言えば、隣接組織を破壊しながら増殖するイメージですが、ネコの神経系腫瘍の場合にはそれに加えて神経に沿って増殖する所見を多く経験します。神経に沿った増殖とは肉眼レベルの大きさの神経という事に限らず、ミクロレベルでも神経に沿って増殖します。
【広がり方の違い】
一般的な腫瘍では腫瘍本体とそこから連続する浸潤部が肉眼的にも連続しているのが見て取れますが、悪性神経鞘腫はそうでない事がしばしばあります。浸潤部が腫瘍のボリュームを形成せずに広がることも多いのです。周囲の正常組織を温存したまま、腫瘍周囲の末梢神経がその太さを変えずに次々と腫瘍化し広がっていくようなイメージでしょうか。ですので、腫瘍と少し離れた部位の一見正常な末梢神経の中に腫瘍細胞と考えらえる異型細胞が混在しているという所見は珍しくありません。
【骨にも容易に浸潤する】
骨外に発生した腫瘍が骨を破壊する場合には、一般的には腫瘍が骨に広く接し、骨そのものを外から破壊していくのが通常です。しかしながら悪性神経鞘腫の場合には腫瘍細胞は末梢神経に沿って骨内にスッと広がることがよくあります。骨の栄養孔を通り腫瘍細胞は骨内にも浸み込むように浸潤します。初期には骨破壊が見出せない状況でありながら既に骨内に浸潤・増殖している可能性があるのです。従いまして最初は皮膚などの骨外に原発した腫瘍であっても、骨の外側からだけでなく内側からも増殖し骨を破壊するといったことが起こり得ます。
【レントゲン所見】
上記のような性質から、皮膚や皮下に発生した腫瘍であるにも関わらず視診、触診所見に比べてアンバランスに強い骨溶解が生じているという印象を受けることがあるかもしれません。そしてレントゲンやCTで骨に異常が確認できない場合であっても、腫瘍が薄く骨内に広がっている可能性も考慮しておく必要があります。
パソラボ
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