第206回 病理からみた胆嚢粘液嚢腫
第206回 胆嚢粘液嚢腫
胆嚢粘液嚢腫は病理診断で日常的に経験する疾患ですが、時として病理検査依頼書に記載されている臨床診断名が胆嚢粘液嚢腫でありながらも、組織学的に粘液嚢腫の所見が認められないといった症例に遭遇します。そこで今回は粘液嚢腫の形態はどうなっているのかという事をお話しさせていただきます。これによって超音波でどのように観えるのか、もしくは観えている所見はどのように形成されるのかが繋がれば幸いです。
【粘液嚢腫の粘液の状態】
粘液嚢腫は粘膜上皮から粘稠性の高い粘液が産生され、それが胆嚢内に充満し、胆嚢を腫大させる状態です。粘稠度は様々ですが、典型的には完全にゼリー状で固形の状態です。一般的には胆嚢全体に同様の変化が認められ、症例によっては胆嚢の一部部分にだけ生じることもあります。
【細かく層状に凝固する】
粘液は粘膜上皮により産生されますが、産生・停止・産生・停止を繰り返しているのでしょう。顕微鏡的なごく細かいレベルにおいても無数の粘液層が重なってる状態であり、またそのいくつかが合わさりより分かりやすい層が形成されるかもしれません。これらが木の年輪のように見えます。時としてこの年輪の部分や、下記の筋(スジ)の部分で凝固した粘液が崩れる事もあります。その場合、崩れた粘液がスムースな曲線や直線を描くかもしれません。
【放射状の筋】
胆嚢の中心部から胆嚢壁に向かって伸びる放射状の筋がよく観られると思います。これはどのように形成されるのでしょうか?組織学的には胆嚢粘膜には胆嚢陰窩という無数の孔があります。腸陰窩のようなものです。粘液嚢腫で分泌される粘液は、胆嚢粘膜の表面上皮のみだけではなく、陰窩上皮からも分泌されます。その結果、陰窩内には粘稠性の高い粘液が溜まり、陰窩は拡張します。また胆嚢は粘液の貯留によって大きくなり、粘膜は菲薄化していきます。元々は孔であった一つ一つの陰窩は、拡張し菲薄化することで最終的にはお皿のような浅いくぼみになります。超音波所見の筋と筋の間に挟まれる部分がこの拡張した一つのお皿であり、筋の部分はお皿の縁の部分になります。このようにして粘液嚢腫の際の模様が形成されます。
【胆汁の位置】
粘液嚢腫の粘液は粘稠性が高いため、典型的には凝固した粘液と胆汁は混ざり合いません。そのため粘液部分は粘液のみから構成され、緑色の胆汁は胆嚢中心部に押しやられてていることが多いです。また粘液嚢腫の際には胆泥、胆砂を含むことが少なくないため、これらによって胆汁の所見は変化とするものと考えられます。
【二次的な感染】
粘液嚢腫では化膿性炎症を伴ってることも少なくありません。その中には細菌がしばしば確認されます。胆汁の排出がスムーズに行われないために逆行性に感染しやすい状況にあるのかもしれません。粘液嚢腫では胆嚢内には流動し難い粘稠性の高い粘液が充満しているため細菌感染を起こしていても広がり難く、割と膿汁は限局している事も多いものです。場合によっては胆嚢内に細菌は確認されても、粘液に閉じ込められているためか炎症反応を全く伴っていない症例もあります。
【胆嚢破裂】
粘液嚢腫では胆嚢壁に壊死が生じやすく、粘膜のみが壊死を起こしている場合、胆嚢壁全層が壊死を起こして場合があります。胆嚢壁は壊死により伸縮性がなく脆弱化するため破裂することが少なくありません。また、上記の細菌感染による炎症が胆嚢壁を脆弱化し、これが破裂の引き金になることもあります。
パソラボ
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