第196回 良性腫瘍の摘出基準について
第196回 良性腫瘍の摘出基準について
腫瘤を有する症例が来院された場合、診断の方向付けを行い、内科的に治療するのか、経過観察するのか、外科的に切除するのか、切除するのであれば切除の規模をどうするか治療法を選択していくことになります。診察の中で視診、触診を行い、細胞診やバイオプシーへと進めていく中で「良性腫瘍と考えられる」 と判断した(された)時、治療法をどのように選択されていますでしょうか。
通常は経過観察で問題ありませんが、こういった場合には切除しましょうという基準が4つ存在します。私なりの解釈も含めて記載しようと思います。これらに該当しなければ必ずしも切除しないという事ではありませんが、獣医師として診察し処置する上で、4つに該当するしないに関わらず、治療法選択の根拠となる考えというものは持っておくべきかと思います。
1.増大傾向を示していること
これはいくつかの解釈ができるかと思います。
・今後自潰や機能障害等を起こす可能性が高い。
・検査部位は良性所見でも、他の領域に悪性所見が隠れている可能性。
・診断リスクはないのか(診断と増大傾向の辻褄が合わない)。
以上のことなどが挙げられるかと思います。ただし悪性腫瘍の可能性も再検討する必要がある場合には気軽に切除を選択するというよりは、再度バイオプシーなどによって診断を煮詰める必要があります(良悪にかかわらず切除範囲が変わらないというような場合は除きます)。
2.機能障害を伴っていること
例えば骨盤腔内の腫瘍により排便が困難になっている、肢の腫瘍が大きく歩行に支障がある、巨大腫瘍の重量で起立が大変になっているなど様々考えられるかと思います。
3.感染を伴っていること
薬で抑えることが出来る場合や、腫瘍に外傷が重なった場合など一次的な感染などは別として、良性腫瘍に感染を伴っている場合は切除の対象になります。
腫瘍が自潰しているなど、良性腫瘍の存在自体が感染の原因になっていれば感染は繰り返されます。また良性腫瘍とはいえゆっくりと増大しますので、感染は悪化していくことも想定されます。このような場合も切除の対象になります。
4.飼い主さんの希望
爆弾を抱えているみたいで不安、美容的問題として切除したいなど飼い主さん側の考えにより切除を行う場合になります。ペットは飼い主さんのものである以上は基本的には希望があれば切除になり得ます。これは獣医学的な事柄ではありませんので説明するまでもありませんが、飼い主様が充分に判断できるだけの情報を獣医師が提供できた上での希望であるという点は重要になるかと思います。
その他
現状における判断としましては上記1-4に当てはまることが多いと考えますが、未来まで見据えますと、その他の要素も出てきます。
例えば上記に該当しなくても、発生部位が悪く(眼瞼や指など)これ以上大きくなると切除が大変になる、年齢が進んでからの切除になると麻酔リスクが上がる、腫瘍からの出血が止まらない等が挙げられます。ある意味、?Cに当てはまる部分もあるかと思います。
【報告書のコメント欄】
上記を基に良性腫瘍であっても症例ごとにコメントを書き分けていますが、もちろん症例の状況をすべて把握しているわけではありません。また「経過観察」 と記載されていても切除をしてはいけないものではありませんし、ましては無条件に経過観察をしていればいいというものでもありません。病院の先生方において判断していただき、また経過観察中に状況次第で判断をし直すといった場面も必要になるかと思います。
パソラボ
記事をPDFでダウンロード